イメージ:第198回審査 大島依提亜さんの審査

第198回審査 大島依提亜さんの審査

デザイナー・大島依提亜さんによる第198回ザ・チョイスの審査が2月17日に行われました。応募数は約400人、1400点。

予定時間ほぼぴったりに大島さんが到着。審査会場にご案内すると、大島さんは「すごい量ですね」と机の上に並んだ作品の量に驚いた様子。応募数も確かに多かったのですが、今回の特徴として比較的サイズの大きな作品が多く目につきました。

簡単に流れを説明したあと、すぐ審査に入ります。大島さんは素早くジャッジしていきますが、最初のうちはほとんど作品が残りません。始まって1分ほどしたところで「次に残す作品とは別に、迷ったものは保留という形にして後で見直してもいいですか」という話が出て、ここからは「残す」「残さない」「保留」の3つに分けることになりました。

大半は「残さない」の判断ですが、「保留」がポツポツと出るようになり、そうするうちにちょっとずつ「残す」が出始めました。全体としては、最初からかなり絞り込んでいる感じです。「スピード速すぎますか? 残す作品の数はこのぐらいで大丈夫ですか」と気遣いつつ、大きな作品の山がどんどん片付いていき、次に残す作品や保留の作品も次第にたまって来ました。

基本的な審査ペースは変わりませんが、審査が進むにつれて時折ピタっと止まって「う〜ん」と考え込む場面が出て来ました。ただし、そうやって考え込んだ作品のほとんどは「残さない」のジャッジ。後で分かるのですが、残す・残さないとは別の観点で作品が気になった時に考え込んでいたのです。

1時間ほどで一通りの作品を見終えました。作品の数量を考えると、かなりのペースです。「どうですか、多すぎますか?」「いえ、1回目としては絞られている方だと思います」。そんなやりとりもありつつ、大型の作品もあるので、それなりのボリュームの作品が残りました。

通常は休憩のタイミングですが、「僕はまだ大丈夫なので、このまま保留作品だけ先に見ちゃいましょう」ということで、保留とした作品20数名分を机に並べて順に見ていきます。すると、意外な反応が。「あれ? この絵、見た記憶が…完全に忘れている!」と、わずか1時間ほど前に見たり残した記憶が飛んでいる作品がいくつか出てきたのです。実は、これは後で出る重要な話につながります。「自分の忘却力に愕然としてます」と大島さん(苦笑)

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結局、保留から次に残したのは3名分ほど。これを2次審査分に加えて、ここでコーヒーブレイク。大島さんに一通り作品を見ての感想などを伺います。

「最近イラストレーション誌で特集される絵のバリエーションって広がっているじゃないですか。以前はファインアート系といわゆるイラストレーションぽいのに大別されたけど、最近は“絵師”系の人もいるから、(チョイスにも)そういう人がいるのかなと期待したけど、ほとんどいないですね。絵師的なスキルがありそうな人は散見できたけど、“チョイスの流儀”に寄せすぎている気がして、ここで選ばれて出て来る絵と特集されている絵との乖離を感じます。どっちがいいとか正しいではないけど、これだけ隆盛をきわめているジャンルがあるなら、あえてその流れに乗っかってその推進力を借りて台頭する戦略があってもいい。最終的にジャンルを超えた存在になれたらいいわけだから」

「これはちょっとキツイ話になりますが、ここに出して来る人の多くが職業としてイラストレーターを目指していると思うんですけど、目的があまりはっきり見えていない、試行錯誤中の人が多い気がしました。着地点が見えていないような。装画をやりたいという人は多いけど、なんか漠然としている。型にはまるフォーマットが溶解しているからかもしれないけど」

再び審査の話に戻ります。一時審査で、時折じっと見ていた作品への言及です。

「最初の段階で外しちゃった中にも、面白いもの、引っかかるものがありました。審査で残す残さないという基準とは別ですが、そこで目が止まること自体すごいことで、そのことは伝えたいかな」

ちなみに、残す作品も保留の作品もほぼ即決でした。審査では落とすけど、何か引っかかりのある作品について考え込んでいたというわけです。

そしてここからが重要な話題。

「フッと選んで、後になってこんなのあったっけ、という“残らないけど残る絵”ってありますね。記憶に残る絵というのが描く目的意識としてはあるけど、その逆みたいな。映画のサウンドトラックに例えてみると、そのシーンにぴったり合っているけど、後になると記憶に残っていない曲。すごく特異な楽曲というのは、印象的ではあるけれど、それゆえに映画の進行を阻むことがある。機能するけど残らない絵というのは、描き手のヒントになるかも」

「見る速度や並び順でも、絵の印象は変わると思う。1回目と2回目で印象が違ったり、一度見たのに初めて見たような気持ちになったりするのは、そういう要素も影響していると思います。イラストレーションがたくさん並ぶ場の一つが本屋ですけど、(単体では)弱いと思った絵がそこで目立つこともある。一つひとつは弱くても、たくさん並んだ時の他の絵との関係性や相乗効果で機能するような、そういう絵やデザインのありようを考えてみるのもいいと思います」

「今、文芸誌のアートディレクションをしているんですけど、従来の挿絵と文芸の関係、小説と組み合わせる絵のありようではなく、インターバルとしての絵、流れを分断する絵というのを考えるようになってきました。SNSとかで予期せず文脈もなく出てくる絵や動画の面白さってありますよね。それを解析して見せられたらいいんだけど、そういう場で目に留まる絵って職業的イラストレーションとは別物のことが多い。現代美術の作家さんとか、職業的でない絵のパワーを利用することが僕自身増えていて、だから今日の審査も職業的にやっていけそうかという観点では選んでいない気がします」

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2次審査へ。数はそこそこ絞られているのですが、大きな絵も多くまだ机に並びきれないので、1次審査と同様に一人ずつ見ていきます。ここでも先述のような「残した記憶が消えている」作品がありました。この段階で「この人は入選!」という作品が1名あり、それは別にしておきます。1次審査から半分程度に絞られ、最終選考へと進みます。

最終選考に残ったのは20数名で、全て机に並べて、まず入選にする作品を選び上に短冊を置いていきます。最初の数人はあっさり決定。8名ほど選んだところで、「なんか重たい絵ばかりになったな、好きだから仕方ないか」とポツリ。ここから悩みだした大島さん、気持ちを切り替えるため今度は準入選にする作品を選び始めます。すると再び選考がスムーズになって、最初に選んでいた1名を合わせ、入選・準入選計16人を選び出しました。

16人に絞ったところで改めて入選と準入選に分けていきますが、ここで選外から1名入れ替えがありました。入選と準入選の選別が済むと、作品の絞り込みを準入選から進めていきますが、ここでも入選と準入選の入れ替えがありました。入選作品の絞り込みを行い、16時半過ぎに審査が終了しました。

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審査結果は下記のとおりです。

入選▼

●大場ケンイチ(東京都)●ちばえん+キドコ工房(静岡県)●田村重幸(埼玉県)

●山口新平(神奈川県)●大多和琴(東京都)

●にしざわゆかり(大阪府)●扇谷みどり(東京都)●太田侑子(京都府)

●山本由実(東京都)●志水聡香(大分県)

準入選▼

●かみじのりこ(埼玉県)●ササキエイコ(東京都)●磯拓史(東京都)●松浦知子(大阪府)

●本田アヤノ(京都府)●おおたはるか(奈良県)

最終選考まで残った人々▼

山本挙志、岩村亘(埼玉県)相原和也、長谷川朗、赤池奈津希、岡田喜之(東京都)久保田潤、(神奈川県)anata、高田昌耶(大阪府)岩田知子(京都府)秦直也(兵庫県)

審査終了後、大島さんは別件で進めている作品集のデザイン打ち合わせへ。お疲れさまでした。

入選・準入選作品と大島さんの講評、総評は2016年4月18日発売のイラストレーションNo.210に掲載します。


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